大阪府立高校での学校図書館の情報センター化と
情報システム研究委員会
大阪府立高校における、「蔵書管理システム」導入までの経緯( 現在の府立学校図書システム)
1.「情報システム研究委員会」の発足と答申(1988~1989)
1988年、学校図書館情報化を研究するため、大阪府高等学校図書館研究会
(府高図研)に情報システム研究委員会が発足し、1年後に以下の4項目を答申した。
(1) 府立高校において、個々に資料の管理・検索を目的としたいわゆる<図書館システム>の導入は、現状では不必要ないし早計である。
(2) しかるべき時期に府下一斉の共通システムを導入することが望ましい。
(3) システム化は、各学校図書館の利用実態に応じて可塑性のあるもので、かつネットワーク化によって図書館相互の活用が図れるものとする。
(4) ローカルデータ以外の書誌データは、信頼性の高いいずれかのMARCを用い、データの共通化と入力の省力化を図るものとする。
(この4項目については、「学校図書館のコンピュータ化について」と題して、以下に詳しく掲載している。
『図書館研究』第26号(府高図研の研究誌 1989年)
『学校図書館へのコンピュータ導入』 (全国SLA 1990年) )
2.「大阪府学校情報ネットワーク」と「蔵書管理システム」
(1)「大阪府学校情報ネットワーク」と第1次蔵書管理システム
<第1次「蔵書管理システム」の開発>
2000年2月、大阪府は新年度からの高校授業料引き上げと、それによって得られる歳入で生徒の教育環境を改善することを決定した。
大阪府教育委員会(府教委)は「府立高校学校教育充実関連施策」を策定し、その一つとして、「全校で生徒がいつでもインターネットを使えるようになります」とのスローガンの下、「学校情報ネットワーク」整備事業が展開されることになった。(ネットワーク)
当初計画では、全府立高校156校に3ヵ年計画で配置が予定されていたが、国の「IT戦略」や府の「電子府庁推進」に乗って一年繰り上がり、2001年9月には全校で稼動した。
(総事業費、約8億6千万円/初年度)
これにより、すべての府立高校に校内LANが構築され、図書館に5台の固定端末が設置された。また、ノート型端末が各校に10台づつ配当されて、図書館では赤外線無線で利用できる環境が整った。(注)
進路指導室等へも6台の固定端末と情報コンセントが、普通教室すべてに情報コンセントが設置された。
これらの端末は司書室内設置のサーバから、光ファイバー専用線で(大阪府)教育センターと結ばれ、教育センターを介してインターネットに常時接続が可能である。また、LAN教室(端末41台)からもインターネットに接続できるよう機器の更新がなされてきた。
府高図研(大阪府高等学校図書館研究会)は、この間、府教委に対し、府立高校図書館の情報化や図書以外のメディアの整備などを求めてきた。
「学校情報ネットワーク」整備事業は、他県比較でも学校図書館の情報化に重点をおき、学校図書館を「高度情報通信社会の学習センター」(中教審)にすべく、一歩踏み出したものである。
府教委は、「サーバのハードウェア仕様に資料管理ができる能力を持たせられるようにしているが、ソフトウェアに適当なものが無く、図書館研究会等と連携して開発したい」との方向性を示すに至った。
そこで、「情報システム研究委員会」は「学校図書館蔵書管理システム」の仕様について、府教委から示されたコンセプト、「将来的に府立高校間の相互検索が可能なシステム」に加え、「各校の資料組織の現状に柔軟に対応できること」「データ構築にMARC(TRCD)が活用できること」など、検討を行なった。
そして、2001年3月に「学校図書館蔵書管理システム」が完成し、学校図書館職員に対して、府教委主催のソフトウェアの講習会(説明会)が行なわれた。
注—- 2009年時点では、図書館用ノート端末10台・教室用ノート端末10台の合計20台が配当された。
(2)大阪府学校情報ネットワークの更新に伴う改善要望
<第1次「学校図書館蔵書管理システム」の問題点>
大規模なデータベースを構築するための制約(あいまい検索が出来る項目が限定される)や基本構造の完成までに時間的余裕がなかったため、「書籍ID」での並べ替え・検索ができない(蔵書点検の事後処理が不便)、「注記」「総合検索」項目が短いなどのほか、貸出管理、各種統計機能、蔵書点検の事後処理などのデータ更新や手入力の支援機能がないなど「トータル」システムとしては未完成であった。
一方、研究指定校の協力により、TRCDを用いてのデータ構築環境については、一定の水準に達した。もちろん、「件名」検索をはじめ、今日的な図書検索を構築するためにも、TRCDの導入は不可欠であった。しかし、TRCDの使用料が各学校の負担となっており、このことが「学校図書館蔵書管理システム」の導入に踏み切れない大きな「枷」の一つとなっていた。
そこで、この問題点について、「学校情報ネットワーク」の更新時期を睨んで改善をはかることにした。
<図書館蔵書管理システムの改善要請>
2004.6.16 府高図研役員会で、情報システム研究委員会からの図書館蔵書管理システムの改善要請案を決定して、7.4の総会にて承認された。(改善要望)
この案をもとに、情報システム研究委員会を中心に府高図研役員会が府教委に数回の要望をした。 『学校情報ネットワーク図書館蔵書管理システム図』
(3)第2次蔵書管理システム( 府立学校図書システム)への移行
さて、2005年の11月から府立48校に対して、学校情報ネットワークの更新が行われた。この更新事業の内容には、本研究会の改善要請案が多く実現している。
この更新に関係して48校を2つのグループにわけて、教育委員会主催の「学校情報ネットワークの更新に伴う講習会」が、教育センターでそれぞれ11/4.11と11/7.14に行われた。
3.成果と課題
(1)MARCの非統一性( 「府立学校図書システム」の問題点 )
2006年の9月から、残りの府立99校に対して、学校情報ネットワークの更新が行われる予定であったが、11月まで延びた。MARCの採用に関わってのことであった。
結局、2006年の11月から府立48校にはTRCのMARC、府立99校には日書連のMARCが導入され、様々な不都合が生じた。
「情報システム研究委員会」の答申(1989)で、「 (4)ローカルデータ以外の書誌データは、信頼性の高いいずれかのMARCを用いて、データの共通化と入力の省力化を図るものとする」として進めてきた現在までの流れが多少弱くなった。
府立99校の高校からの不満が多数よせられた。
しかし、この点以外に関しては、ほぼ要望が満たされている。
(2012年の更新で、MARCを切り離して入札た結果、日書連のMARCがすべての学校に導入された)
(2)学校司書の削減問題
大阪の2009年までの経緯
1953 「学校図書館法」制定
~1961 学校図書館職員の私費雇用
1962~1973 学校図書館職員の公費雇用による配置(実習助手)
大阪府独自の「定数配置基準」により、全日制普通科に実習助手4名配置
(理科2 家庭科1 図書1)
1980 「教諭外職種の定数削減」により、実習助手1名が「賃金職員化」
1997 「学校図書館法改正」
2003 司書教諭の発令 (教育振興室教務課長通知 H15.2.14)
2002 「新行財政計画」で 実習助手の削減
(図書館担当者の不補充と賃金職員化)
2009 「橋下行財政計画」で学校司書のいない高校の増加
(賃金職員もおかない)
(3)司書教諭の位置づけと学校司書とのパートナーシップの構築
図書館にかかわる人・・・学校司書と司書教諭が互いの専門の仕事を活かし、
カバーし合えるよきパートナーとなって、
○ 日常的な資料提供とサービスで、利用者に豊かな図書館体験をしてもらう。
○ 生徒の生育過程で、学校図書館が有効に寄与できる活動を模索する。
○ 学校図書館の役割を広めて利用者を増やす。
そのためには当面、司書教諭は、
○ まず図書館を使える先生になってほしい。
○ 学校司書と職務が「競合」したり、学校司書を「指揮・監督」するものでない。
○ 図書館教育及び読書活動が学校全体で協力して行われるよう、
他の教職員等との連携・協働を図るコーディネータとしての役割を担う。
「図書館運営に必要な2つの視点」
1. 司書教諭は授業を構築していく上での専門性をもつ。
2. 学校司書は資料に関する専門性をもつ。
大阪で将来的には、学校司書であれ司書教諭であれ、学校図書館をきちんと運営する人が必要になってくる。
このためには今後、図書館運営の「スキル」の体系化やその研修システムを、本研究会と府教委が連携して構築していかなくてはならない。
(府高図研は司書教諭対象の<研修会>を毎年開催している)
(4)各教科との連携
各学校図書館が、(各学校それぞれの)共通課題を通じて、学校教育の諸局面で有効に寄与できるためには、各教科との連携が必要である。
そのため、府高図研は各教科の研究会と合同研究例会を毎年開催している。
(<国語研究会>、<地歴・公民(社会科)研究会、<国際教育研究会>などと)
(5)今後は公共図書館との連携も模索したい。
司書部では、周辺の地域(堺市)や公立図書館との連携を長年進めている。
3.「今後の展望」
現在、執筆を検討中です。
文責
冨田 忍(もと大阪府立佐野高校)